劇団花吹雪(1月 浅草木馬館)は客を楽しませる努力を惜しまない

 1月8日、浅草界隈は正月気分がほんのちょっぴりだけ残る。しかし木馬館の舞台や(恒例の浅草歌舞伎を公演中の)浅草公会堂はまだまだお正月ムード満点だった。ちなみに銀座にある新橋演舞場海老蔵獅童市川右近による「車引き」、白波五人男」、「七つ綿」)も全面お正月モードのまま。

 

さて今月の木馬館は「花吹雪」がのっている。この劇団は去年11月の梅田呉服座公演以来だ。8日は金曜日だったがほぼ満席。開演前から熱気がある。金曜日というのは週末直前の落とし穴みたいで、週末に行くから今日は観劇しないという気分になりがち。不入りを理由に金曜日は、ときに「来んよう日」だなどと自虐ネタがあちこちの座長の口からとびだしたりする。「花吹雪」には無縁のことばなのだろう。この劇団がもつ底抜けの明るさと笑いの精神は関西、関東どちらでも大歓迎されるようだ。いつ見ても損をさせない、がっかりさせない劇団である。芝居も舞踊もしっかり工夫を凝らしている。

 

芝居は『浅草の灯』。二つの(善と悪の)博徒一家の抗争を背景に生き別れた父と子(息子)が再会する話だ。きっかけは善の博徒一家が身分の違いを理由に結婚できないのを苦にして自殺を決意した武家の娘を助けたことである。娘の父親は犯罪を取り締まる(江戸)町奉行。善の親分(春之丞と京之介が昼夜交代)は悪の一家から妨害を受けながらも娘の願いがかなうように尽力する。娘の親である奉行を説得するうちに実は親分こそかつて奉行がやむをえない事情で生き別れた息子だと判明する。若いカップルは無事に結ばれ、父と子も親子名乗りができてメデタシメデタシ。話がうまくできすぎていて面白みに欠けていたように思う。でも話の展開がそつなくできていたのはさすが先代(寿美英二・桜京誉 兄弟)の頃から芝居がうまいと評判されてきた「花吹雪」だからこそだろう。

 

この日の観劇で記憶に強く残るのは第3部のちょっとした芝居形式のフィナーレである。題して「心中メドレー」。三組の男女の悲恋が舞台に展開する。両座長春之丞と京之介による「お梶」(元ネタ ー 菊池寛藤十郎の恋』)、愛之助(女形)と梁太郎(立ち)による「おさん(元ネタ ー 井原西鶴『好色五人女』、近松門左衛門『大経師昔暦』[近松版のみ二人は罪を許され刑死しない]・川口松太郎おさん茂兵衛』)、酒井健之助(女形)と(終始後ろ向きの)寿美英二?(立ち)による「お蔦(・主悦)」(元ネタ ー 泉鏡花婦系図』)の三組だ。観客にはおなじみのカップルだけに島津亜矢の絶唱を背景にそれぞれ数分の無言劇で充分ドラマが立ち上がる。いや、正確にいえばそうなるように舞踊が組み立てられていた。おみごとでした。堪能しました。