下町かぶき組 劇団「岬一家」(明石 三白館)

「劇団 悠」以外の下町かぶき組傘下の劇団は久しぶりだ。しかも岬 寛太座長率いる「岬一家」は私は初めての観劇だった。JR明石・山陽電鉄 明石駅を南へ徒歩わずか5分で(ただし駅から直進できず多少ジグザグする必要があるが、三筋目の通りの南側に見える)三白館(みはくかん)に到着。去年12月に杮落しをすませたばかりできれいな劇場:しかも本格的なしつらえがすごい。こちらのサイトに画像付き紹介あり:「area.walkerplus.com 明石に大衆演劇場 ほんまち三白館オープン!!」)

 

岬寛太座長率いる劇団「岬一家」は私にとって初観劇だ。が、ネットで座長の名前はよく見かけた。また劇団花形 飛雄馬は去年3月「劇団 悠」が浪速クラブで公演中にゲスト出演したのを見せていただいた。それから劇団のレギュラー・メンバーではなさそうだが、長身、美形でいかにも時代劇俳優という感じの竹内春樹も去年11月の、これまた劇団 悠の明生座(大阪)公演で(一観客として)お目にかかっている

 

劇場入り口では若手 山脇広大がお出迎え。この人大衆演劇の仕事はまだ日が浅いのだろうと勝手に思っていたところ当日の芝居『祭りの一夜』で悪役(敵役)を好演していていてそれなりの芸歴のある役者だと納得。今後のさらなる成長が楽しみだ。

 

ところでこの劇団(下町かぶき組傘下の諸劇団と同様)いわゆる「大衆演劇」というか「旅芝居」というか、そういう劇団とはカラーがはっきり異なる。ただ、座長岬 寛太だけは例外だと観劇して帰宅後も思っていた。しかしそれは私の誤解だった。ネット検索ですぐわかるが、日本舞踊、吉三寿流の家元の家に次男として生まれたそうだ。幼少時からTVや 映画の子役として活動し、やがて商業演劇界へ。11年前に松井誠と出会い下町かぶき組に参加して2010年1月に現在の劇団を旗揚げしたとのこと。でも伝統芸能の血筋を引いている点で現代劇系の役者とは醸し出す雰囲気がちがうのも当然だろう。それでいながら座長の芸の質と座員たちの(大衆演劇っぽくない)芸の質が劇団としてしっくりなじんでいる。もちろん一座の要は座長。だが一人だけ浮いたりしていないところがいい。

 

昨日印象深かったのは座長の謙虚さだ。劇団員一人ひとりを立てている。この点で私にとって岬 寛太は好感度抜群である。いい劇団と出会えた。1月の姫路、(2月は四国だったが)今月はふたたび関西にもどって明石公演。来月は滋賀県大津市の「ニュー琵琶湖座」と関西で存在をアピールする機会が増えている。ぜひいい成績を残して大阪地区の公演を期待したい。

 

さてこの日の芝居『祭りの一夜』だが、一人の純真な娘をめぐって「産みの母」と「育ての母」のあいだに生じた葛藤がテーマである。一人のやつれてみすぼらしい風体の女(松木美和)が往来で若いカップル(飛雄馬と木戸口ひかる)とすれ違うが、女は空腹のあまり倒れ臥す。心優しいカップルは親切に介抱しようと食べ物と水を得ようとその場を去る。そこへ幼なじみだというヤクザ者(山脇広大)に絡まれながら裕福な家の女(座長)が登場し、往来に倒れているくだんの女と目が合う。二人は17年前に別れた幼なじみ同士だと気づく。

 

実はみすぼらしいなりの女は17年前家族を顧みない夫の暴力から幼子(若いカップルのうちの娘)を守ろうと出刃包丁をふるったために夫を殺してしまう。その結果島流しの刑に処される。島へ送られる直前幼なじみ(座長)にわが子を託す。やがてご放免。わが子のようすを知ろうと幼なじみの家をたずねるところだった。

 

罪に問われた幼なじみから託されたこどもを裕福な女はわが子同様に愛情を尽くして育てる。やがて地元の庄屋の息子(くだんのカップルの男)との縁談も決まっていたが、彼女につきまとうヤクザ者が彼女がなびかないことの腹いせに庄屋に娘の素性をばらす。縁談は破談に。その仕打ちに憤った座長演じる女はヤクザ者を殺害する。

 

一度は島帰りの幼なじみが自分たち「親子」の幸福を台無しにしたと憎むが、愛する「わが子」のためを思って手を血で汚したという同じ苦い体験が二人の女をふたたび深い縁で結びつける。この女たちは生きることをめぐる同じ悲しみを共有する。そこから痛切であると同時にある種の暖かみを秘めた連帯感が生じてくる。

 

だが、そういう私情は世の中の掟が許しておかない。人を殺めてしまった裕福な女はこれから島送りとなる運命を避けられないのである。わが子同様の娘とその産みの母であり幼なじみでもある女をあとの残して去っていく。まことに悲痛な結末だが、座長の演技には説得力があり感動した。座長はじめ出演者のみなさん、グッジョブ (GJ / Good job)!

 

ちなみに「母」を「父」に置き換えた同工異曲の作品を見た気がする。残念ながら題名を思い出せない。

 

昼の部全体について一言。第3部舞踊ショーのしめくくりであり、同時に昼の部全体のしめくくりでもある「ラスト・ショー」(=5分前後の長さで物語性が多少加味された群舞、いわゆるフィナーレ)はもっと華やかにしてほしい。芝居や舞踊を堪能してすでに劇団「岬 一家」に興味をもっている観客をこのフィナーレで断固引きつけ魅了する。「また来よう」と思わせるインパクトのある内容であるべきだ。今回はたまたま控えめだったのかもしれないが、控えめにするのは皆無であるべきだと思う。

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*劇場へのアクセス:JR大阪から明石まで新快速で40分、快速なら50分。運賃は920円。乗換案内:www.jorudan.co.jp/ ジョルダン乗換案内、時刻表サービス

*今後の予定演目は次のとおり。

3月13日(日)

お芝居:赤尾の林蔵

ラストショー:娘ちゃっきり節 ー 美空ひばりメドレー

14日(月)

お昼一回ロング公演(夜の部なし)

この日だけ入場料は2千円。

お芝居:文七元結

ラストショー:鶴の舞橋 ー 日本列島やりなおし音頭

15日(火)休館日

16日(水)

お芝居:雪の夜の物語

ラストショー:常磐津 筏の与三郎 ー お富さん

17日(木)

お芝居:音吉出世旅

ラストショー:ニッポンワッショイ