劇団花吹雪 模倣(パクリ)の才は創造力

2016年9月26日 神戸 新開地劇場

特別パクリ狂言『龍馬と近藤と沖田と時々ゴルフ』(特別出演:伍代孝雄)

 

物語のベースは落語家桂三枝(現・6代目桂文枝)の創作落語ゴルフ夜明け前』(1980年代はじめ、youtubeで視聴可能)。幕末の鎖国と開国の国家政策をめぐって敵対する坂本龍馬新撰組 近藤勇沖田総司が西欧文化の象徴のようなゴルフに当初は戸惑いながらもやがて打ち興じるようになる。ひいては熾烈な争いをくりひろげていたライバル同士が心を許しあうという現実的にはありえないドラマが展開する。

 

元ネタである落語の秀逸さは(世間に広まっている類型化された性格づけではあるが、)ゴルフに興じる三者の個性のぶつかり合いをユーモアたっぷりに描き分けた点にある。花吹雪はその発想をじょうずにパクってみせた。おみごと!

 

とりわけ印象深い人物は無骨を売り物にしている印象の強い近藤勇だ。近藤役の伍代孝雄は達者な役者ぶりを披露してくれた。滑稽なのは近藤がゴルフにのめり込み見事なスィングを披露するくだり。ちなみに伍代はゴルフを趣味とするのでクラブの振り方がみごとなのも当然だ。

 

イデアのパクリはこれにとどまらない。他劇団からの関係作品や劇団花吹雪の過去の上演作品からのつまみどりも加わる。春之丞・京之介両座長が事前に予告していたとおり台本なしどころか座長による口立てさえないとのこと。登場する座長をはじめ座員たちが了解していることといえば(両座長から事前に伝えられた「あらすじ」のみ。セリフはその場、その場に応じたアドリブだという。これでほぼ2時間観客を退屈させることなく上演しきった劇団花吹雪に対してa big two thums upを謹んで進呈させたいただこう。それにしてもみなさん各自が経験を通して脳内と体内に構築してきたセリフの「抽き出し」がすごい。ほころびを感じさせない言葉のやりとりが展開していた。脱帽!出演者全員をリスペクトするしかない。

 f:id:bryndwrchch115:20160927185852p:plain (両手の親指が上向きに立ってます。賞賛のジェスチャー。)

終始笑いに包まれた場面展開だった。しかしひとおり物語が終了したあとエピローグでは沖田総司の扮装のまま京之介座長が書状を読み上げる形式で劇中では敵同士ながらも仲良くゴルフに興じていた面々の悲痛な最期が語られる。京之介座長は感情移入しすぎたせいかいささか涙声になっていたようだ。雄々しい男たちの悲劇に涙したにはちがいない。だがそれ以上にあらすじだけ理解している2時間近い長丁場をほとんどつかえることなく滑らかに仕上げた主人公のみならず出演者全員の奮闘に対する感謝の気持ちが座長の涙声としてあらわれていたのだと信じる。

 

感動を覚える舞台を見せてくださった出演者のみなさんの奮闘ぶりに私も心から謝意を表したい。

 

劇団花吹雪の「パクリ」芸は単なる猿真似の霊異記をはるかに超えて創造性あふれる芝居になっていた。

 

<キャスト>

龍馬:春之丞、沖田:京之介、近藤:伍代孝雄、勝海舟:寿美英二、土方歳三:愛之介、中岡慎太郎(龍馬の友人):酒井健之助(劇団 井桁屋座長)ほか