セルゲイ・ポルーニン ー 後日談と現在

 前回、英国ロイヤル・バレエ団を突如辞したポルーニンがモスクワやノボシビルスクを拠点に活動と書いた。このロシアでの活動期間は長くは続かず、結局ロンドンへ戻ったらしい。独自に企画した公演を実践する一方でロイヤル・バレエ団とも共演してもいるそうだ。

 ポルーニンは異性には無関心と思い込んでいた私には驚きだったが、ここ数年に渡って女性バレエ・ダンサーNatalia Osipovaとペアで仕事を続けている。英国のマスコミの報道では親密な男女関係もほのめかされているほどだ。Natalia Osipovaは彼より2、3歳年長、ロシア出身でボリショイ・バレエ団でも活躍し現在は英国ロイヤル・バレエ団のプリンシパル・ダンサーの一人である。

 ポルーニンは伝統的なバレエを超える新しいダンス形式を模索しているようで、その試みは"Project Polunin"と名づけられている。今年3月14日ー18日、ロンドン (Sadler's Wells Theatre)で第1次公演。未来志向の構成と演出を標榜し、出演者はダンサーもミュージシャンもいわゆるバレエ公演では見られないハイブリッドな人選だった。主役はポルーニンとオシモバだ。

 演目構成は①(蝋で貼り合わせた羽をまとって天空を飛翔するも太陽に近づきすぎて蝋が溶け墜死するギリシア神話Icarus, the night before the Flight、②(新作ダンス)Tea or Coffee、③(自己愛の化身のような美少年ナルキッソスと彼に恋する森の妖精エーコーをめぐるギリシア神話 Narcissus and Echo だった。

 ネット掲載の批評を4本ほどみたが、どれも期待はずれ、新味なしと大いに不評だ。

https://www.theguardian.com/stage/2017/mar/19/project-polunin-review-ballet-rebel-gets-lost-in-ego-sergei-sadlers-wells

https://www.thestage.co.uk/reviews/2017/sergei-polunin-project-polunin-review-sadlers-wells-london/

http://thecuspmagazine.com/reviews/project-polunin-review/

https://www.culturewhisper.com/r/dance/project_polunin_sergei_polunin_sadlers_wells/8181

 自分が学んできた伝統的バレエに不満を抱くポルーニンが目指すのはバレエかコンテンポラリー・ダンスか?(注:「テンポラリー・ダンス」はほとんど定義不能だが、バレエをはじめヨーロッパの伝統的舞踊に対する不満・批判から1980年代前半にフランスあたりで誕生したダンスをさすらしい。)

 ポルーニン自身がこういう不評を意識しているかどうかわからない。彼の強引な面もある性格から推測すると完全無視かもしれない。来たる12月5日ー9日"Project Polunin"第2弾が予定されている。公演会場はロンドン・コロシアム劇場。

 出演者や演目はいまだ未定とのこと。どうなるんだろう。

 

 『テレグラフ紙』に掲載されたポルーニンの発言集からは彼が今も愛する家族に強いた犠牲がトラウマになっているとわかる。彼のような天才は生身の人間と超人(=神と悪魔)というかけ離れた相反する2極の間をさ迷うしかないのだろうか。