狂言と伝統舞踊は相性がいい!

      「逸青会」10周年記念特別公演

  長唄『汐汲』尾上菊之丞

  狂言『御茶の水』茂山逸平

  『煎物』藤間勘十郎尾上菊之丞茂山逸平

  『鏡の松』尾上菊之丞茂山逸平

 

 狂言師茂山逸平さんと(日舞尾上流四世家元菊之丞さんがタッグを組んで10年。「逸青会」に青の字が出るのは2011年に三代目菊之丞を襲名するまで尾上青楓を名乗っていたため。  

 私は熱心な狂言ファンのつもりだが、真剣に見始めてまだ3年ばかりの駆け出し。一方舞踊(日舞)は以前から歌舞伎で玉三郎さんらの踊りの美しさには気づいていたものの、より深く日舞の魅力を意識するようになったのは一年足らず前のこと。昨年(2017年)12月京都芸術劇場春秋座で梅若玄祥(現 五十六世梅若六郎)さんの縁者が公演されるというので今回ゲスト出演された藤間勘十郎さんの踊りをみてインパクトを受けた。力強さと優美さが融合するみごとさに魅された。  

 つい先日も国立文楽劇場(大阪)での伝統芸能公演鑑賞会で(安珍清姫伝説に基づく地唄『古道成寺』を舞った)吉村雄輝さんのキレのある舞踊を見て興奮したところだった。若い頃には理解できなかった伝統舞踊に開眼(?)できてありがたいと思う。

 「逸青会」は今回が初めて。菊之丞さんは本職ではないはずの狂言特有のセリフ回しが板についている。日舞の枠を超えて積極的に他流試合を経験してきた方だし、過去10年にわたる逸平さんとのコラボを積み重ねたことが生きているのだろう。まるで一流の狂言師だ。本職の舞踊も軽快で優美だった。舞台人として見せる、魅せる芸。逸青会は今後も楽しみだ。  

 10周年記念という特別行事で菊之丞さんが懇請されたのか勘十郎さんがゲスト出演。一年ぶりに踊りを見れる楽しみが加わった。勘十郎さんのエネルギッシュで優雅な所作はいつ見ても素晴らしい。来月8日は春秋座(『藤間勘十郎 春秋座 名流舞踊公演』 四代目市川猿之助監修)でまたお姿を拝見できるのが待ち遠しい。  

 ところで今回の演目で気になったのは菊之丞さんが脚本を書いた『煎物(せんじもの)』という狂言仕立ての舞踊。12世紀末(鎌倉時代)以降上流階級(僧侶、公家、武士)の間で茶の飲用が普及。お茶は現在のようなドリンクの一種ではなく薬用として理解されていたそうだ。お茶は実に高価なものであった。そのため(ネット上の『日本の食べ物用語辞典』によると)一般には茶葉から作る茶ばかりでなく、というかむしろもっぱら「茶外茶」とよばれた薬草類を煎じたものが飲まれたらしい。劇中で逸平さん扮する煎物売りが生姜などの薬用植物(生薬類)の名を口にしたのもうなずける。喉の渇きを癒すばかりでなく命を活性化する、いわば福をもたらすドリンクを主人と太郎冠者が喜んで飲む様子は観客も見ていて楽しくなってくる。当時の喫茶文化に疎い現代人の心にも訴えかけるというのは当の文化自体がもつ新鮮な魅力ばかりでなくそれを可視化する芸能の魅力があってこそだろう。  

 もう一点、劇中の煎物売りはベタなリアリズムを避け、優美に簡素化した商い道具(天秤棒の両端に下がる小ぶりのザル)を担いでいた。(中世の職人たちを文字と絵で紹介する)『七十一番職人歌合』所収の「二十四番」には 煎物売りの項があってずっしり重そうな携帯用釜を担いでいる(ウィキペディアにあり)。無知な私には面白い発見だった。  

 今回初めて見た「逸青会」公演は新鮮な驚きを覚えさせてもらってありがたかった。