能楽「高安流ワキ方」の魅力

「ECO ろうそく能 」なにわ文化芸術芸能推進協議会10周年記念特別公演

 山中能楽堂大阪市阿倍野区阪南町)にて。

 <演目>

  1.トーク「高安流の芸」

  2.仕舞 「和布刈(めかり)」岡 充、

   「春栄(しゅんねい)」有松遼 一、「大蛇(おろち)キリ」小林 努

  3.能『弱法師』

   シテ(俊徳丸):山中雅志(やまなか まさゆき 観世流

   ワキ(高安通俊):原 陸(高安流)、アイ(下人):野村太一郎

   笛 野口亮、小鼓 久田舜一郎、大鼓 白坂信行

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 公演皮切りのトークでは「高安流」を題材に原 大(はら まさる 高安流ワキ方)さんのお話。予定では高安勝久さんと原さんのお二人のトークだったが、高安さんがなにか事情があって御欠席。また高安さんは『弱法師』でもワキ方として高安通俊を演じる予定だったが、原 陸さん(原 大さんの息子さん)が代演。インフルエンザかな?

 東京から来演の和泉流狂言師の野村太一郎さんは若手ながらりっぱに一人前の舞台を勤めていた。何年か前TVのドキュメンタリー番組で祖父の人間国宝野村 萬さん(1930年生まれ)の指導を受ける太一郎さんの姿を見た。孫の芸の下手さに萬さんが苦虫を噛み潰したような顔つきをされたことが印象に残っている。だが精進の甲斐あってか今回の舞台は堂々としたものだった。

 ちなみに会場受付で太一郎さんが下足番をしておいでだった。きっと志願したのだろう。謙虚さも芸能にたずさわる人の大事な要素にちがいない。

 

なくもがなの解説:

 『弱法師』は基本的に説経節「信徳丸」、浄瑠璃「摂州合邦辻」のテーマと共通する。伝説に多く見られる貴種流離譚の一つ。裕福な家に生まれながら讒言に迷わされた父親により生家を追放される青年俊徳丸。生まれ故郷を離れてハンセン病にかかり失明するという不幸を背負いながら一人彷徨うが、神仏のご加護のおかげで父と再会し、めでたく実家にもどる。

  「和布刈」は禁忌を犯した男神に対する女神の激しい怒りが原因で陸と海が引き離されてしまう。その怒りを鎮めようと神官たちが磯で和布 (にき‐めとはワカメの異名)を刈りとり捧げる話。つい好奇心に駆られて妻であるトヨタマヒメ(海神の娘)の出産の場面をのぞいたヒコホホデミノミコト(山幸彦)をめぐる神話が元になっている。

 「春栄」は死に瀕した武士(もののふ)兄弟間の愛を描く。承久の乱が起こった1221年のこと。鎌倉幕府軍と後鳥羽上皇率いる反乱軍が相まみえた宇治橋合戦が背景。

 「大蛇キリ」は八岐大蛇(やまたのオロチ)神話に基づく。(ピンからキリまでというように)キリは能の最後の部分を指し、強い感じの舞になることが多い。

 

 山中雅志さんはその凛とした舞台姿は印象的だ。それから高安勝久さんの代役ながらベテラン(山中さん)を相手にその父親の役を演じた若きワキ方原 陸さんにも拍手を送りたい。

 仕舞を舞い、謡われた高安流ワキ方の面々、岡、有松、小林さんたちは主に京都でなんども拝見している。小林さんは古くからの伝統を踏まえた語り口が耳に心地よい。皆さん体力が充実している年代なので動きがキビキビしていて見ていて気持ちがいい。

 

 個人的ながら印象に残ること。頭の両サイドに剃り込み(?)を入れた原さんのヘヤスタイルがいい。原さんの舞台を初めて拝見したのはちょうど2年前春日若宮御祭でのこと(演目は後に記す)。『羽衣』では天女(シテ)役の金春穂高さんに対して羽衣を拾得し我が物にする漁師白龍を演じ、他方『黒塚』では安達ヶ原の鬼女を演じる櫻間右陣さんを相手に修験者、阿闍梨祐慶として登場。数珠を激しく擦り合わせて魔物を折伏する場面が今も記憶に残る。この時の原さん、ドスの効いた声と個性的なヘヤスタイルが相まって迫力満点だった。

 しかし今回トークショーで聞いた舞台のセリフでない話し方がすごく柔和だったのには驚いた。

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2016年12月春日若宮御祭 後宴之式能
★能 羽衣 金春穂高 原大
 笛 貞光訓義 小鼓 荒木賀光 大鼓 井林久登 太鼓 前川光長
狂言 因幡堂 茂山あきら 網谷正美
★能 黒塚 櫻間右陣 原大
 笛 貞光訓義 小鼓 荒木賀光 大鼓 井林久登 太鼓 前川光範
<参考画像> http://pinbokejun.blog93.fc2.com/blog-entry-1006.html

 

<高安流ワキ方 原 大さんと小林努さんに関する記事>

 「劇空間キョウト」https://www.kyoto-np.co.jp/kp/koto/gekijyou/part2-6.html

 

<次の高安能関連の催し>

 2019年2月13日「八尾と能」

 午後2時から八尾市民文化会館プリズムホールにて。

 内容は解説と実演

 出演者:山中雅志、原 大、原 陸(高安流ワキ方)、安福光雄(高安流大鼓方)