座長姫猿之助「劇団あやめ」ー 客を楽しませることに徹するという大衆演劇の本筋をわきまえている

大衆演劇のはるかな祖先の息吹を感じさせる>

2019年4月 劇団あやめ大阪公演(九条笑楽座)

昨年6月大阪は庄内天満座で観劇して以来ほぼ1年ぶりだ。あの時は座長(あやめ猿之助改め)姫猿之助に私が勝手な期待をかけて批判的なブログ内容になってしまった。それ以来私の意識から消えていたが、つい先日大阪で公演中だと人づてに聞き、千穐楽間際(28日、29日)に劇場に駆けつけた。ガッカリさせられたらどうしようという不安はあったが、それでも猿之助の舞台姿は見たいという思いが強かった。

 

けれどもそれは杞憂だった。観劇してよかった。姫猿之助が当初から目標にしていたらしい歌舞伎役者、先代(三代目)市川猿之助(現二代目市川猿翁)。三代目猿之助ケレン味たっぷりの舞台をあやめ猿之助は自分流に仕立てることに成功していると思う。前回の観劇時は座長一人が浮き足立っていた記憶がある。だけど今回は座長も自己主張しながら座員一人ひとりにも自分を売り出す機会を与える配慮が感じられる。

 

劇団あやめの舞台にはまだ去年から今年にかけてわずか三回しか接していない。それでもこの劇団は数多ある大衆演劇の劇団の中でとてもユニークな存在だという気がする。

 

ユニークな存在だという根拠は座長が男であるにもかかわらず劇団自体が今から四百年あまり昔江戸時代に花開いた歌舞伎を生み出す原動力となった女役者、通称「お国・出雲阿国(いずものおくに)」を思わせるからだ。 これなら現在の大衆演劇界をおおう(シニア世代の観客が心身の老化などでリタイアし、その後継者が育っていないということが原因と思える)沈滞ムードを打破してくれそうな予感がする。そういう現状を考慮すると「おくに」さんの登場は必然だと言えそうだ。

 

この実在したらしい女役者は放浪しながら役者業に携わり、時には遊女業も兼ねたと伝えられている。だけど、「おくに」なる人物は個人として特定できるわけではないようでむしろ同時多発的に「阿国」と名乗る女優が出現したというのが真実に近いのではないか。出雲阿国と呼ばれることが多いことから出雲大社と関連づけられ、古代末から中世にかけて出現した歩き巫女と呼び習わされたされた放浪芸人兼遊女の部類に属する人(たち)だったかもしれない。

 

と、こんな余計な議論はさておこう。劇団あやめが「阿国」率いる役者集団あるいはいろんなタイプの「阿国」の集合かもしれない。

 

劇団の主要メンバーとして(若手リーダー)<咲之阿国(しょうのおくに)>がいることは知っている。だから、さも私が大発見したみたいなこと言うのはおこがましいことはわかっているつもり。

 

しかし咲之阿国ばかりが「阿国」ではないのではないだろうか。個人的な意見だが、女優陣をうまく引き立てる座長猿之助は見かけが「大(おっき目)」の阿国に思える。猿之助は生物学的には男ではある。が、生まれつきの役者であることが幸いして(舞台での女形の演技のみならず)集団内部の対人関係でも必要に応じて柔軟にオトコとオンナの切り替えができる人に思える。だから男の沽券に関わるなどとは言い出さない。他方、副座長格の咲之阿国がちっちゃ目の阿国のような気がする。「咲」は音読みで「しょう」。「しょう」と読ませるからにはご本人が小柄であることも観客に意識させる。大と小の阿国コンビが率いる劇団あやめ。二人の阿国は強力なコンビだ。

 

ちなみに「咲」は「笑」を意味するそうだ。劇団の明るさ、笑いの重視の姿勢が芸名に反映しているのだろうか。

 

調子に乗ってさらに言わせてもらう。「咲」と言う漢字は日本神話ではアマテラスの孫(天孫)であるニニギノミコトの妻とされるコノハナサクヤヒメ(木花咲耶姫)を連想してしまう。咲之阿国の美形と舞姿は桜の木の花が咲くように美しいコノハナサクヤヒメとの連想関係がふさわしい。

 

大小の二人阿国こと姫猿之助と咲之阿国のかたわらにはミニ阿国たちが控える。軽業(かるわざ)ガールこと花形<初音きらら>。初音ミク(バーチャル・アイドル)世代を代表するきららさんかな。それだけでなく初音というからには歌舞伎や文楽の『義経千本桜』で描かれる「初音の鼓」と関連づけたくなる。初音きららが舞台で見せるキレのいい殺陣や宙返りなどの離れわざは『義経千本桜』で静御前が奏でる初音の鼓をめぐる話と相性がいい。というのも忠義の心があつい狐の(人間に変身するという)超能力のイメージが初音きららのアクロバット的動きとすんなり重なるからだ。さらに大仰な台詞回しや特大の小道具を駆使して超小柄な身体を大きく見せるという「逆転わざ」に秀でた<ひよこ>。歌ガールこと<千鳥>。最後にデビュー半年足らずながら先輩たちに追いつこうと必死な<胡蝶蘭羽蘭>(ウランってアトムの妹とは無関係?)という一男五女の六人衆。それぞれが得意技を駆使して観客を魅了してほしい。まだ役者としては未熟な胡蝶蘭羽蘭も自分独自の売りを公言できるようになると期待している。