12月(2015年)「劇団Hiryu」は新体制(春之助座長・小寅丸副座長)で公演

春之助新座長・小寅丸新副座長が気になるので12月1日、2時間かけて羅い舞座御所店へ出かけた。二人とも初めての劇団リーダー役なのでかなり緊張のようす。第2部で(近江飛龍を中心に創作されたと思われる)新作芝居「元禄仇討ち絵巻」は春之助が主役、小寅丸が準主役という配役だ。開幕前に来場者全員に進呈するタコ焼きの調理に徹すると聞いていたが、飛龍「総長」が端役で登場。しかし端役ながらも存在感をアッピールしてしっかり目立っていた。

 

この新作はある武家の当主が他家の策略にかかり、文字どおり詰め腹を切らされる。当主の死によって家は取り潰される。無念を残して死んだ当主の嫡男が弁天小僧の正義版みたく売れっ子芸者に扮して憎い敵に言い寄る。相手が女好きであることをたくみに利用してみごと本懐をとげる。粋であだっぽい芸者にははまり役の春之助新座長。敵役の無節操な若殿に扮するのが色ボケで遊び人の役柄を演じさせたら右に出る者がいない小寅丸新副座長である。この配役だけで芝居が盛り上がり、観客は抱腹絶倒すること請け合いだ。ところが幕が開くとタコ焼きシェフから急遽役者に変身した飛龍総座長が登場するではないか。悪に染まった若殿(小寅丸)の家来の一人、それも一見控えめながらその実目立ちやすい列の最後尾、しんがりとしてあらわれる。おもしろアイデア満載の飛龍のこと、今回は赤塚不二夫が生み出した名物キャラ、バカボンのパパのメークでさっそく観客の注目を独り占め。主役と準主役の貢献でじゅうぶん盛り上がった舞台だが、この赤塚不二夫人物造形のおかげでよりいっそう観客席を湧かせたことは疑えない。さすが近江飛龍、あっぱれだ。

 

だが、ここであえていわせていただきたいことがある。初日は春之助ならびに小寅丸が率いる新体制のお目見えなのだ。近江飛龍の端倪すべからざる力量を認めたうえでいうのだが、飛龍総長が強烈な自己主張をしてしまった。ということは、今月が試用月間とはいえ新座長と新副座長の船出の晴れ姿がいささかぼやける結果をまねいたのではないか。私は劇団ファンから顰蹙を買うことを承知の上でそう発言したい。

 

近江飛龍の役者魂が存在を主張せずにはおかないのはよく理解できる。でも新体制の船出の日に春之助ならびに小寅丸を前面に押し出すことを(この二人が全面的な信頼をおいている)近江飛龍は最優先すべきである。さもないと通常より短い公演期間とはいえ20日までの3週間が新リーダー二人だけでなく劇団全体としてやりにくくなりはしないかと心配だ。これが杞憂であればいいのだが。