森川劇団の自信作『お富与三郎 蝙蝠安』は残念ながら<ミスキャスチング>!

2017年11月23日、浪速クラブ(大阪、新世界)

この題材は劇団花吹雪の代表作のひとつ『おとめ(乙女)与三郎』でも使われている。爆笑劇だが、本来は一見移り気な芸者・女郎の隠れた真心を浮かび上がらせる芝居だ。

 

さて今回のキャスティング。まだ中学生の森川煌大、大役「お富」を演じるには幼すぎた。それに(梅毒とハンセン病をごたまぜにしたような病のせいで)鼻の一部が欠損して発音が不明瞭な夜鷹(最下層の売春婦)を演じた森川慶次郎もまだ笑わせる演技が足りない。花吹雪版ではこの夜鷹は<もう一人のお富>と言える存在で、名前もわざとらしく似せて「おとみ」ならぬ「おとめ」。この夜鷹「おとめ」を座長桜春之丞が演じる。フガフガ喋る、その滑稽な喋りっぷりで客席を爆笑の渦に包み込む。一方まだ若手の慶次郎を大ベテランと比べると気の毒だが、その差は歴然としている。

 

座長森川竜二が裕福な家のお坊ちゃん、与三郎と悪事にせいだす蝙蝠安(原作では遊び仲間だが、ここでは「お富」を奪い合うライバル)の二役だ。確かにうまい。となれば相手役、お富は当然<一代新之助を置いてほかになかろう。この新之助、一見謎の新入り座員、実は(訳ありの)元・森川劇団座長こと三代目森川長二郎。脇役、端役でも見事にキャラ立ちさせる演技力の持ち主だ。

 

座長と新之助が昼の部と夜の部で「与三郎・蝙蝠安」と「お富」を交代で演じてほしかった!!!!!!

 

大阪の名門劇場、浪速クラブは森川劇団にとって晴れの舞台だ。今回こそ大阪の観客を感嘆させる配役をすべきだった。

 

この題材は劇団花吹雪の代表作のひとつ『おとめ(乙女)与三郎』でも使われている。

元ネタは幕末期の歌舞伎の『与話情浮名横櫛』(よわなさけうきなのよこぐし)。作者は三代目瀬川如皐(せがわ じょこう)。(徳川の世を震撼させた「黒船」が来航する2ヶ月前、1853年5月に江戸中村座にて初演。通称『切られ与三』(きられよさ)『お富与三郎』(おとみよさぶろう)、『源氏店』(げんやだな)。

 

 

提言:

1. 中学生座員(座長の長男)は義務教育をきちんと修めなくては。かつては学校教育をほとんど修めていなくても大衆演劇の役者はつとまったかもしれない。だが、今ではそれは通用しない。知的に優れたアイデアを繰り出してライバルを一歩も二歩も先んじないと、劇団自体どこからもお呼びがかからなくなる。また伝統的な大衆演劇界も境界が曖昧になり、広く演劇関係の分野から若くて見栄えも良い有能タレント軍団が参入する時代がもうそこに来ている。

 

上演内容の企画、構成、演出は高度に知的な作業だ。そういう営みを実践しようとすれば生きるための基本となる学業、古めかしく言えば読み・書き・そろばんが役者にとって最低限のスキルだ。

 

義務教育だけでは学識、教養のレベルが低いと見られがちだが、この9年間の学習内容はかなり高度だ。(今時の大学生でもそれ以下の場合がままあるらしい。)

 

小中学生にとって一ヶ月ごとの転校ではたとえ内向的でなくても馴染みのない集団に入るのが大いに苦痛だろう。場合によっては家庭教師もいいかもしれない。大学生なら交渉次第で手頃なバイト賃で引き受けてくれるにちがいない。

2.音楽のボリュームもう少し下げて!耳が痛くなる。難聴気味の人を意識しているのかもしれないが、客の半分近くは聴力に問題ないはず。ボリュームあげたからといって劇的効果が高まるわけではない。