パリで見たハイテク活用の人形劇

2018年3月下旬パリに1週間滞在。

 

ホテルの近所にあるカフェで朝食をとっていて店のそばにある人形劇場の看板が窓越しに見えた。興味が湧いて劇場をのぞいて見たが、公演時間帯でないので扉が閉まったまま。

 

そこでネット検索したところ通例の人形劇ではなく様々な物体を生き物、生命体に見立てるかなり実験的な舞台作りをしているらしい。 会場はLe Théâtre Mouffetard (住所73 rue Mouffetard, 75005 Paris) http://lemouffetard.com/

 

24日(土)の席がとれ会場へ出向いてびっくり。来場者の大半は10歳未満と思える子どもと少数の付き添いの大人。この作品は数年前からフランス 各地で上演されていて子どもたちに大人気らしい。

 

もっと驚いたのは最初中国系フランス 人かと思えた人形使い?の女性が冒頭で日本語を話したことだ。 航空機の機内放送などでよくあるように電磁波を発するスマホなど電子機器はこれから始まるショーで使う機器を狂わせるおそれがあるので電源オフにするように私以外全員フランス 人と思える観客に日本語で注意する。

 

えッ!観客は日本語を理解できるの?そんなことありえない。 案の定誰もその警告を行動に移さなかった。

 

後日このショーを考案し演出するMathieu Enderlin氏がネットで公開している文章を見てもここで日本語を使う必然性にはまったく触れていなかった。人形劇を楽しむつもりの子どもにもあるだろう予定調和的な感覚を崩して未知の世界を新鮮な目で楽しんでほしいという演出家や演者の期待がこめられているのだろうか。

 

私が見た演目はCubix。Cubeといえば正六面体。ちょうどサイコロの形だ。この英単語の複数形はcubicsだが、それをオシャレ?に変形させてcubixかな。

 

ちなみに cubix というと15年ほど前に製作され海外でも評判になった日本初のアニメ『さいころボット コンボック』(英語題名はCubix: Robots for Everyone)を連想させるが、関係なさそう。

 

実際舞台で使われたのは1辺が10センチくらいのサイコロ状もので、それを二人の女性が数十個随時並べ替えたりしながら光のマジックのようなことをして見せるショーだ。Cubicというサイコロ型のパペット(?)の群を操るのが日仏のご両人、望月康代 (Yasuyo Mochizuki) とオーレリ・デュマレ(Aurélie Dumaret)。(デュマレさんは頭を丸刈りにしているので男性かと思ってしまった。)

 

1時間ほどの舞台。複数のcubicがスクリーンになっているのか淡い色が現れたりする。とりわけ興味を引くのが舞台に立っている二人の女性の顔がそれぞれ20個前後のcubicにくっきり映る。一部のcubicを外すとその部分は背景の黒幕が見えるだけ。二人は百面相ぽい表情で観客の子どもたちを喜ばせる。最後にキュービックでいびつな形の塔を組み上げる。微妙な安定を保つ塔。塔の構成要素cubicをいくつか抜いて見せ観客をハラハラさせたりする。ゲームでありそうな積木くづしみたいなものか。こういう具合で人形劇よりマジック・ショーに近い。

 

言葉で説明するより過去の同様の内容の公演がいいとこ取りで3分間だけyoutubeで見れるのでぜひご覧いただきたい。 “CUBiX Teaser” https://www.youtube.com/watch?v=jfKSTk3b0aw

 

場内の子どもたちには大受け。しょっちゅう笑い声が響いた。 サイコロ型cubic群に投影される鮮明な映像がどういう仕掛けで現れるのか当初わからなかったが、後面投影 (rear projection) 映写技術を利用しているにちがいない。後面投影は映写機の位置がスクリーンの全面、つまり観客の側ではなくスクリーンの背後なのだ。最近よく見かけるがビルの壁面とか窓ガラスをスクリーン代わりにコマーシャルなどのビデオが映し出される。あれと同じだろう。

後面投影参考サイト: https://www.e-tamaya.co.jp/html/faq/projector/503.html http://theaterhouse.co.jp/p_rear/item_top.html#film-list

 

ただ舞台で使われていたのは大型スクリーンなどでない。先に書いたように1辺が10センチ程度の手のひらに乗るサイズのサイコロである。公演の規模から推測して高価な仕掛けを使うとは考えられない。

 

ネット検索で知ったのだが、厚手のトレーシング・ペーパーだとクリアな映像を写すスクリーンになるそうだ。トレーシング・ペーパーだと安く購入できるし、細工もしやすい。

スクリーンの素材参考サイト: https://nichibun.net/case/project/index.php

 

しかしスクリーンの役目を果たすにはほとんど厚みのないものでないと後面投影される映像が映らないのじゃないか。ところが立体的に組み立てたトレーシング・ペーパーが後面投影のスクリーンとしてりっぱに機能することが次のyoutube動画で納得できる。 「リアプロジェクションマッピングを試した【トレーシングスクリーン】」 https://www.youtube.com/watch?v=7ojzRUCpXWQ

1分24秒の時点で現れる高層建築らしい立体物に後方から投影される映像がくっきり映し出されている。

 

一見高度なテクノロジーが随分身近な場面で(おそらく)安価に効果的な映像効果、いや舞台効果を生み出しているではないか。

 

私の無知を自覚させられたことはさておいてハイテクが演劇の進化に役立っている。今時の子どもたちはそれを当然のこととして受け入れているようだ。

 

しかし考えてみれば、後面投影の技術は随分前から屋内、屋外を問わず大規模なコンサートなどでも利用されている。我が身の物知らずぶりが恥ずかしい。