茂山逸平さんが演じた「釣狐」、元気がありすぎたのでは?

大槻能楽堂改修35周年記念ナイトシアター

2018年5月11日(午後6時30分—9時15分)

狂言「釣狐」茂山逸平、善竹隆平

 笛 斉藤敦、小鼓 成田奏、大鼓 原田一之

能「隅田川」大槻文藏、福王茂十郎

 笛 杉 市和、小鼓 成田達志、大鼓 亀井忠雄 地頭 梅若実 =================================

老僧(狐釣りをする猟師の叔父に化けた古狐)が登場。衣からのぞく足首はケモノ(毛物)の足だ。なんか可愛らしい足もとだ。

 

橋掛りを過ぎて舞台中央に立つと京都茂山一流というか逸平さん独自のギャグの流儀なのだろう、「(猟師役の)善竹隆平とかいうイタズラ者が」と早速相方こと善竹隆平さんをいじる。

 

でも隆平さんはまったく聞こえないそぶり。たしかに狂言という観客の現実世界とは隔てられた架空の世界にいる人物だから無反応なのは理解できる。観客まで無反応だった。笑い声上がらず。しかしここは逸平さんが現実と虚構をごちゃ混ぜにして笑をとろうとしているのだから観客が反応しないのは変だ。それにまた隆平さんも照れ笑いするなりなんなりあえて反応すべきだったのでは?また逸平さんも観客の注意を引くため「善竹隆平」の部分は<太字>発音すべきだった。

 

そうすることで舞台と観客席を分断する結界が決壊して役者と観客が交われたのにと思う。それにもともと能・狂言の原型たる猿楽では舞台と観客席の交流は当たり前のことだったはず。

 

古狐は猟師の罠にかかって命を失った仲間たちを思い復讐心を燃やす。僧侶(猟師の叔父)の扮装をかなぐり捨ていよいよ狐の本性をあらわし舞台を所狭しと暴れまわる。若手狂言師である逸平さんだが、こんなに飛び跳ねたらきっとしんどかっただろう。アクロバット芸だ。アクロバット狂言の先祖猿楽の得意芸の一つでもあったのだから、ここは芸の見せどころだ。

 

こういう次第で体操選手顔負けの運動能力を見せる狂言師である以上賞賛にあたいするのだが、歳経た<古狐>であることも忘れてはいけないだろう。たとえ古狐がある種の霊力を獲得しているので運動能力抜群でもいいじゃないかと言えなくもない。しかし逸平さんの<古狐>は喋り方といい身ごなしといいまだ三〇代の青年の姿だ。老いを若干でいいから垣間見せてほしかった。

 

逸平さんの声の迫力は狂言界でも目立つが、声にしても身体能力にしてもそれをそのままストレートに出さずひと工夫あってしかるべきではないか。(それなら演出プラン出してみろと言われると困るが。)

 

和泉流狂言師野村万作さんの狐像は(遥か昔TVで見た記憶によると)ユーモアより(繊細に表現された)悲哀を強く感じさせられた。これとは逆に京都大蔵流は笑いの要素を大胆に取り入れると工夫によっては逆説的に悲哀が醸し出されるような気もする。

 

ぜひまた京都茂山家の『釣狐』を見てみたい。

 

休憩の後『隅田川』。大槻文蔵さんは幼子を人さらいに奪われ生き別れになった母親像をうまく演じていた。人さらいは日本の中世では珍しい事件ではなかっただろう。

 

人さらいのテーマは中世の語り物を代表する「説経節 さんせう大夫」で有名だ。これは子供向けの読み物「安寿と厨子王丸」として知られている。

 

しかし人さらいが過去の出来事かというとそうではない。人間の世界、欲望は本質的には変わらないのだろう。奴隷制度に代表される人身売買は今も昔も形を変えて世界中人が住むところにはこっそりとあるいは堂々と存続している。

 

隅田川』は活字で読めば強く涙腺を刺激するようには思えないが、シテ、ワキ能楽師の謡と舞を見、地謡の語りを聞くと平然とはしておれない。人の声による語りの威力はすごいものだ。

 

つい先日見た記録映画、文楽版『春琴抄』でも<語り>の威力、魅力を感じた。国立文楽劇場(大阪日本橋)で月イチ開催される「公演記録鑑賞会」で見せてもらった文楽版『春琴抄』では義太夫の語りがもつ威力を改めて思い知らされた。

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「釣狐」参考サイト http://kyotokyogen.com/guide/tsurigitsune/

隅田川」参考サイト http://www.noh-kyogen.com/story/sa/sumidagawa.html ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

能公演を見るとついつい思い出すのだが、twitterや5ch.netを荒らし回るというか、騒ぎまくるカブキ・能楽に<異常な愛情>を表明する(中年)女子のこと。この人が神戸能楽界だけでなく日本の伝統芸能界を貶めまくっている。どなたか能楽界で権威のある方が強権発動してこの御仁が訴えるような「非」が神戸能楽界にあるならきちんと正したうえで騒動の元凶たる女子を殲滅してほしいものだ。