芝居が売りの劇団荒城の危機(2018年10月)

今年1月篠原演芸場で見て以来ほぼ1年ぶりの劇団荒城だから期待していた。なのに若手中心の芝居が生煮え状態。

 

久しぶりに浅草にもどってくる荒城の大入り祈願の思いを込めて豪華な花飾りを届けてくれた宇梶剛士さんの期待に応えているとは言い難いのが残念。

 

10月21日夜の部、お芝居は『闇のかがり火』。新版『座頭市』という形式。任侠一家の一人娘(蘭太郎)が父親(真吾)をはじめ一家を皆殺しにされる。犯人はこの娘の許嫁という皮肉な設定。凶行の直前まで一家に草鞋を脱いでいた仕込み杖剣法の達人たる盲目の渡世人(月太郎)が虫の知らせで戻ってきて悲嘆にくれる娘と出会う。娘はあまりに酷い現実を見るのに耐えられないと刀で両の目を潰してしまう。魂を責めさいなまれる苦痛に比べれば視覚喪失による闇の方がまだまし。なんかギリシャ悲劇『オイディプス』を連想させるくだりだ。こんな気まぐれな連想はさておき、盲目になった娘は親の仇を討つため盲目の渡世人に弟子入りし、苦しい修業に耐えてやがて一人前の仕込み杖の使い手となる。女座頭市の誕生だ。こうして復讐が成就する。外題が暗示するのは盲目ゆえの闇のなかで仇討ちを果たして得られる安堵という光なのだろう。

 

脚本は真吾座長でこれまで何度か上演してきたようだ。劇の本筋が始まる前のプロローグで薄闇の中(初見の客には不可解な)短い芝居が展開する。幕切れ近くなってこれが復讐の場面だとわかる仕掛け。超絶ユニークではないが、芝居作りを心得た構成だ。

 

主要な出演陣が違えば、大衆演劇の醍醐味を味わえる作品だろう。が、しかし主役を張った月太郎と蘭太郎兄弟の演技力が不十分だった。そのため人間社会がある限りたえることがなさそうな人間性の影の部分を浮き彫りにできていない。父親の名作の一つだと安心しきって筋書き通りにすれば成功と思ったら大間違い。まだ十代の四男の虎太郎をのぞくと兄たち三人はそれなりの舞台経験を積んでいるのだから、その経歴を生かした舞台づくりができたはず。ただ単にセリフを覚えるだけでなく自分たちの解釈がにじみ出る出来具合にしてほしかった。

 

歌舞伎見物ーー残念ながらベテランがさえなかったーーのため一日置いて23日昼の部は『丁ノ目陣太郎』と(帰りの飛行機の都合で途中退出してしまった)『元禄万治』。

 

『丁ノ目陣太郎』は人間の普段見えない闇の世界(人間の本性に潜む<悪意>?)に鋭い視線を向ける真吾座長ならではの物語。悪の張本人は芝居の幕切れ近くまで謎のまま。名前だけは明かされるがその動機は依然として不明。それは観客の想像に任されているという真吾座長の心づもりかもしれない。

 

知恵足らずのグズな男に仮装して一家に潜入し得意の剣の技で皆殺しにする丁ノ目陣太郎(勘太郎座長)という人斬りが楽しいらしい根っからの悪人。物語の展開上おもしろいのはその悪人に指図する極悪人せん太郎(虎太郎)が控えているという設定だ。しかしこの「せん太郎」という黒幕の事情が一切わからないのではその存在感すら疑わしいと思えてくる。芝居自体がもっと複雑な展開をするなら存在感が膨らむのだが、そういう展開にはなっていない。やはりこの場合、せん太郎が一家皆殺しを企んだ事情の一端でも暗示(解明ではなくあくまで暗示)すべきだと思う。そうでないとopen-ended、終わりがない、事態が解明されないままで終わってしまい物語としてまとまりがつかない。観客の想像を掻き立てるというより、尻切れトンボという印象がぬぐいきれない。

 

ちなみに謎の黒幕という設定で成功しているのは押井守監督作品『攻殻機動隊』(1995年)に登場する「人形使い」だ。 勘太郎座長が悪人と周囲の笑いを買う愚鈍な善人という二重キャラを演じる。

 

『丁ノ目陣太郎』で勘太郎座長はお笑いキャラを楽しんで演じているのはそれはそれでいいのだが、もう少し計算づくで演じてほしい気がする。対立する二重キャラは計算なしには浮かび上がらない。

 

想像するに、いかなる役者をも圧倒する勢いのあるベテラン真吾・照師兄弟が目を光らせていないと緊張感に欠けるのではないか。照師さんはすでに劇団を離れたようで今となっては力を借りるわけにはいかないのかもしれないが。

 

舞踊ショーもさることながら芝居の構成・演出についても若手四人が中心となった上で父親真吾座長といつも安定した演技で信頼できる後見 和也さんにも助言を求めるべきだろう。

 

毎回芝居の上演に際しては若手四人がどういうメッセージを込めているのかその都度事前に納得して上演に臨むのが好ましい。

 

若手四人が力量を一層増して大阪、神戸に乗り込んでくるのを楽しみにしたい。

 

最後に一言。今回は姫川豊さんのセリフ回しの良さと(いつもながらの)姫川祐馬さんのみごとな舞踊を楽しめてありがたかった。