劇場での観劇マナーの良し悪しとは? ー ボリショイ劇場で気づいたこと

先月(2019年11月下旬)ボリショイ劇場を初めて訪れた。オペラ3作とバレエ1作を出国前に劇場版HPでeチケットを購入済みだった。11月25日成田の悪天候が災いしてモスクワ到着がかなり遅れてしまい、当日午後7時開演だったオペラ『セルビアの理髪師』は諦めざるをえなくなった。翌日小品2本立て(1幕物2本)のバレエModanse: “Like a Breath” & “Gabrielle Chanel”) を観劇。ボリショイはオペラもさることながらバレエも大いに期待していた。伝統的スタイルのバレエで修練したダンサーがモダン・ダンスの舞踊スタイルもこなすのかと素人臭い興味も湧いた。しかも2本目の主役)ココ・シャネル役)はボリショイのベテランプリンシパル、スベトラーナ・ザハロヴァだ。(バレエの初級観客たる)40歳になっていてもこれだけの綺麗な動きを見せる彼女には驚嘆に耐えない。

 

筆者の席は3階バルコニー(部隊に向かって右側)でお値段1万6、7千円。でも舞台よりのお隣の区画が我が区画より多少出っ張っているので視野が狭くなる。その上そのお客さんが前のめりになる。その結果舞台の左半分しか見えない。しかも出演者は(私から見て右手から登場し、左手で踊る時間が短かった(と筆者には思えた)。

 

翻って日本の観劇マナーを考えると、前のめり観劇はタブーとされているように思う。歌舞伎座などでは場内アナウンスで後方の席の人が見にくくなるので前のめりになってみないようにと警告が出される。しかるべき入場料を払っているのに不平等な扱いを受けるのは納得できないという社会全般の暗黙の合意があるからだろう。70年余り前太平洋戦争で負けてからというものやたらと「平等主義」がはびこり、悪平等じゃないかと思える事例が頻発する現代日本

 

だが、今回モスクワでは上演中に声高に喋るのは不可にしても、各自が静かに、よりよく見れる姿勢で観劇するのにケチをつけなくてもいいじゃないかと思えてきた。視野制限ありの座席が嫌なら一階平土間の前の方の席を確保すればいいだけ。ただし、高いのは覚悟すべし。

 

実際平土間でも観劇した。『スペードの女王』がそれ。平土間前から6列目、中央区画の左端だった。幸い前に大柄な観客もおらず視界はよかった。だけど休憩挟んで4時間近い舞台は特別インパクトのある舞台装置や演出でもなくやや退屈だった。もっと過激な解釈をすれば長丁場も飽きずに楽しめたような気がする。

 

今回予定していた4作のうち最初の『セビリヤの理髪師』は飛行機便の延着ゆえやむをえない。一方モスクワ最後の夜(11月29日)をオペラで楽しむつもりが突然の公演キャンセル。開演数時間前にメールで連絡が来る。どんより曇った寒い、と言って摂氏零度くらい、昼過ぎのプーシキン美術館前でメールに気づいた。タイトルに”Your cancel details”とあるので何かの手違いでこちらからキャンセルしたことになったのかと思ってしまった。しかし購入者都合でeチケットのキャンセルはありえないし、返金手続き完了とあったので落ち着いて考えれば劇場側の都合で公演中止になったのだった。こんな次第で5泊したのにボリショイ劇場の舞台は2本しか楽しめなかった。残念。

 

それに比べると3年前の11月、同じく5泊したサンクト・ペテルブルクではミハイロフスキーとマリインスキーでオペラやバレエを堪能できたのは幸運だった。

 

ちなみに上記の2本立てのバレエはモスクワの後ロンドン公演になったようだ。The Guardian紙の劇評はやや辛口。 https://www.theguardian.com/stage/2019/dec/04/svetlana-zakharova-coliseum-london-review-bolshoi-ballerina-coco-chanel

 

このバレエ作品とオペラ『スペードの女王』に関する出演者は次のサイトが詳しい。 https://operaandballet.com/classical_ballet/bolshoi_Svetlana_Zakharova_Ballet_Gala/info/sid=GLE_1&play_date_from=01-Nov-2019&play_date_to=30-Nov-2019&playbills=45882 https://operaandballet.com/opera/big_bolshoi_The_Queen_of_Spades_2018/info/sid=GLE_1&play_date_from=01-Nov-2019&play_date_to=30-Nov-2019&playbills=45908