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気品溢れる「一竜座」の舞台(2016年2月 大阪 十三 木川劇場)

一竜座が大阪にもどってきた。

 

暖冬のはずが突然厳冬に変わったりした先月は奈良県榛原駅近くのやまと座で公演。気温が激変した1月だったが一座の皆さんお元気そうだ。(私は当初の計画ではやまと座へ少なくとも3回くらい観劇にでかけるつもりが、元日の舞台を見たきりだった。三番叟は楽しませてもらって感謝している。

 

今日から2月。ようやく私にとって通いやすい十三は木川劇場で一竜座が見れる。第1部顔見せミニ・ショーは白龍、竜美獅童、風月光志の気合いの入った群舞で開幕。2番手はまだ現役中学生(なのに平日の昼間舞台に立っている不可解さ)の一竜きらりだ。きらりが踊りの腕前をあげていたのには驚いた。本人の努力と一座の先輩たちの教えが効を奏したのだろう。

 

印象に残ったことはベテランも若手も昨年末の千鳥劇場や(1回しか観劇していないが)先月やまと座の場合と比べていっそう気迫のこもる踊りと芝居だったことだ。座員一同の意気込みが伝わってくる舞台だった。

 

その中でも座長 あおい竜也はひときわ輝いていたと思う。第1部顔見せミニ・ショーで最後に真打として登場した座長。その踊りはベテラン役者にしか出せない上品な色気と凛とした品格があって感動した。さすが一座を率いる人物だけのことはある。(座長たる者、かくあるべきだが、業界の現実はというとうそ寒い。有名劇団でもリーダーが名前負けしている場合がなくはない。残念。)

 

芝居の外題は『男十三夜』。あぶれ者が底辺を生きる女性の施しを受けて改心し堅気の商売で身を立てる。だが、のちに恩返しをしようとくだんの女性を尋ね当てたもののちょっとした行き違いから殺人を犯すはめになる。物語の枠組みは『一本刀土俵入り』(作・長谷川伸)を連想させる。

 

料亭の下働きの女お仲(白龍)には博奕に使う金をせびるしか能のない遊び人の夫(風月光志)がいる。そういう夫に手を焼いているものの惚れた弱みで無理算段をして金を工面してやる日々を送る。その日も店の主人(竜美獅童)から夫の言いなりに金を借りてしまう。ところがその金を通りかかったスリ二人組(「花形」ならぬ「クワガタ」と自称する龍磨と一竜 力)にスリとられる。やがて事件を知った目明かし(あおい竜也)が手下(とくたろう)とともに二人を召し捕る。が演じるスリ犯の兄貴分は三日月のシンスケといい、常習犯なので目明かしも顔なじみである。またシンスケの不幸な生い立ちにいくぶんか同情もしている。世をすねたりしないもののシンスケ同様に幸せ薄い過去をもつお仲もシンスケと自分の生い立ちが重なることを直感する。自分でも罪を悔いているシンスケは改心の意思を表明する。犯人たちは番所へ引かれていく。そのときだ。お仲は更生を誓うシンスケの心の支えになるようにと願って母の大事な形見である簪を贈る。(我孫子屋の酌婦お蔦が簪を駒形茂兵衛に与える場面と同じだ。)シンスケが本気で改心する覚悟ができたと判断した目明かしは黙って捕り縄をはずしシンスケを放免する。

 

数年後シンスケは縞の着物に角帯しめた商人(あきんど)姿でもどってくる。りっぱに更生した姿をお仲に見てもらいたいためだ。その頃すでにお仲はヤクザな夫と別れ(以前から働いていた)料亭の主人と結ばれて女将に納まっている。ある日別れた夫が店を訪れ以前の関係をネタに脅して金を強要する。それを見たシンスケは怒りに燃え、争っているうちに誤って相手の短刀でお仲の前夫を刺し殺してしまう。かけつけた目明かしも殺人罪ではシンスケを見逃してやれない。窃盗(スリ)で縄目にかかった回数が十二度。「十三度目」は殺人罪だから死罪か軽くても遠島(年限を定めずに伊豆七島佐渡隠岐壱岐への島流し)である。せっかくシンスケがなし遂げた立ち直りも頓挫してしまった。シンスケは大事にしてきた簪を懐に引かれていく。

 

『男の十三夜』はなんとも悲しく切ない芝居だ。十三度目の罪が男の人生を狂わせてしまう。主役のシンスケに扮した龍は普段出がちな浮ついた気取りの演技がかなり抑えられていた。そのため人の心をうつシンスケ像を描き出せたように思う。

 

私見だが、第3部舞踊ショーではとりわけ風月光志の個人舞踊が印象に残る。「宇治川哀歌」(歌・香西 香)に合わせた踊りが風月光志特有のこってりした動きが生きていて楽しめた。その3番の歌詞はこうだ。「恋は宇治川に流されて もうすぐ冬ですね 空を見上げりゃ雲が乱れて 胸が騒ぎます あなた恋しいあなたが恋しい つのる心に 雪が舞う」(作詞・秋 浩二)

 

今月の木川劇場は期待に心がはずむ。