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一竜座(千鳥劇場、12/18/2015) ー 幻影二重奏

はや千秋楽まであと1週間を残すのみだ。高槻は千鳥劇場での興行が25日で終わると、来年1月は奈良県榛原市にある「やまと座」があるとはいうもののあそこは京阪神からは遠い。だから毎日でも観劇したいが、そうもいかない事情もある。

 

今日の公演で印象に残ったのは「矢切の渡し」と銘打ったフィナーレである。名役者白龍の一人息子とくたろうが登場。口元のメークが変だ。(ゲゲゲの鬼太郎)のネズミ男を思わせる。つづいて恋人役の龍が女形で登場。舞台の常識に反して女形の方が背が高い。(一竜座のファンなら男女の背丈の逆転は目新しいことではないので対して驚かない。)それよりなにより愛らしいオンナであるべき龍が滑稽未満点の変な顔なのがおもしろい。これは何度見てもおかしい。観客は慣れることがないのだ。

 

ふたり相舞踊のバックには「矢切の渡し」が響く。世間の掟にそむく悲劇の恋人たちは逃避行を選ぶしかない。日本の芸能にとって男女の逃避行は「道行」のテーマのひとつだ。ととくたろうは現実では許されない男女の愛の極地が死への旅立ちであるという「道行」の究極の意味を喜劇の色に染められた幻影で描いてくれる。

 

今回のフィナーレはこれで完結しない。この喜劇版道行が終わると今度は大衆演劇界の名役者ふたり、あおい竜也座長(立役)と白龍(女形)が登場し、シリアスな道行きが舞台に展開する。いつもながらこのふたりは卓越した日本舞踊の技をそれぞれの流儀で見せてくれる。喜劇的前半とちがって、後半は静かな雰囲気の中でオトナの男女の逃避行だ。前半の喜劇性が薬味としてきいていて座長と白龍が奏でる道行の幻影は観客の心にじんわりとしみていたことと思う。

 

ちなみに暁龍ととくたろうのコンビで悲劇のカップルを描く道行物の相舞踊は以前なんどか見た。立役にしろ女形にしろとくたろうは悲劇キャラにふさわしいまともなメークをしていた。一方龍はいつもアイデアを凝らしたメークで喜劇キャラを演じて観客を湧かせていた。だが、いつしかとくたろうもどこか少しだけ変なメークで登場するようになる。この「少しだけ」がミソである・のように喜劇メークが似合いそうにない(と私には思える)とくたろうがちょっぴりふざけることで、そのあと少し間をおいて姿をあらわす龍の滑稽ぶりが増幅される。

 

ところで明日は特別狂言必殺仕掛人」。なにしろ一竜座による上演なのだから座員一人ひとりのブッ飛びぶりが期待される。抱腹絶倒まちがいなし。