読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

劇団 悠・版『追われゆく女』はこの芝居のテーマを鮮明にしてくれた! 

 『追われゆく女』、3月13日(日)、弁天座(奈良県大和高田市

人間社会に普遍的といえるほどつきまとう疎外。人間関係から必然的に生じる澱、よどみ。そういうものを一時的にせよ解消するにはだれかを選び出し、その澱をいわば罪として背負わせるしかない。犠牲にされた者は悲惨きわまりない思いをすることになる。

 

お千代という一人の女(座長松井悠)が十年ぶりに故郷の村に帰ってくる。貧しいながらも清く正しく生きることをモットーとする村民たちにとって女の帰郷は迷惑この上ない。というのも女は横浜は本牧遊郭で女郎奉公に出ていたのだ。他人である村人ばかりか女の実の弟(嵐山錦之助)やその女房(なおと)まで帰郷した姉をあしあしざまにののしる始末。女の老いた母(高野花子)は事情を知っているが、娘のたっての頼みで真実をいわない。実は十年前弟が当時村を襲った悪性の伝染病にかかり、その治療費をまかなうために女は自ら進んで遊郭勤めを選んだのだった。女の留守中に病死した父親は娘に申し訳ないといいながら息をひきとった。両親だけは真実を心得ており、心の中で絶えず娘に詫びてきたのだ。

 

私はこれまで別のふたつ劇団でこの作品を2回見ている。だが、今回見た劇団 悠による構成・演出は作品の曖昧になりがちなテーマを的確に描出したという意味でみごとな出来映えだと思う。

 

過去2回の上演では村人や家族(弟夫婦)娼婦に身を落としたことを理由にして女をどこまでも排斥し疎外する状況に焦点があてられていた。その結果、女は村人総出のイジメの犠牲者として浮かび上がる。本来なら心が安らぐはずの郷里、実家から「追われゆく」しかなくなる。たしかにこういう仕打ちは犠牲とされた人間にとって残酷きわまりないことにはちがいない。

 

しかし、このようなイジメなら、村人や弟たちの誤解が解ければことはすむ。この作品の結末のように当の女がふたたび故郷を離れるいわれがないはずだ。女は外題にあるとおり自分のことを「追われゆく女」だと認識しているのはなぜだろうか。女にとって生涯腰を落ち着けて住まう場所がない。そう女は気づいているのだ。だからこそもともとから自分を理解し愛してくれている母やようやく誤解を解いてくれた愛しい弟と別れて旅立っていくのである。

 

主人公、お千代は正直で繊細で愛情深い人間である。愛する者のためには自己犠牲も厭わない強い精神の持ち主である。だが、そういう繊細さと強靭さを合わせもつ人間が複雑な人間関係のしがらみに巻き込まれてしまうと窮地に陥らざるをえなくなる。

 

村人や弟という身近な人間たちによる疎外は二次的、福次的な疎外である。それより厄介なのは(人間にとって不可避の)社会生活そのものから生じる疎外だ。このいわば一時的、主要な疎外は抗するのが困難、いや不可能ですらある。それゆにお千代は「追われゆく女」でありつづけるしか道はない。

 

そんなお千代にも救いを与えてくれる存在がいる。幼い頃から見知っている近所の先天的痴ほうの青年、クニちゃん (高橋茂紀)がそれだ。彼は一人前の社会生活を送れない自分を支えてくれるはずの両親をすでに亡くし、村人のお慈悲にすがって生きざるをえない。彼もお千代と同様自分の確固たる居場所をもたない人間だ。この意味で二人には共通項があり、それが二人の心を強く結びつける。クニちゃんはお千代と同じく「追われゆく」人間となって村を離れ、どこか別の居場所を探しつづける道を選びとる。

 

過去2回の見た「クニちゃん」的存在と劇団 悠・版「クニちゃん」との間には決定的なちがいがある。長身でコミカルな風貌と言動を強調する高橋が演じる「クニちゃん」には他劇団のひ弱そうな「クニちゃん」にはない強靭さがある。しかし、その一方で高橋「クニちゃん」はお千代に似て純粋、繊細な人柄であることも見落とすべきではない。お千代とクニちゃんはたがいに支え合って生きていくと信じたくなる。今回の上演はそういう人物描写だった。

 

<〆のツブヤキ> 今日の芝居もぜひDVD化して販売するかネットで有料配信してほしいものだ。でも録画などに要する人手やDVD制作費の調達がむずかしいのかな。

 *************

劇団 悠 弁天座3月公演

お芝居外題(予定)

15日(火)『大江戸の屋根の下』

16日(水)『山の兄妹』

17日(木)『長屋長屋の物語』

18日(金)『長屋の捨吉』

19日(土)『遊侠三代』

20日(日)『花のあと

21日(月)『直次郎情話』

23日(水)「特別イベント:なおと、錦之助、和 さおり [「和」の読み:かず]の合同誕生日公演」

25日(金)『新選組(入場料1,600円、前売り券プラス200円)

27日(日)『化け猫』化け猫の精に扮した座長が観客席に張り渡した綱渡りを披露(入場料1,600円、前売り券プラス200円)

 

劇団メンバー、高橋茂紀さんのブログは演目予定情報の発信地です。(高橋茂紀's BLOG: blog.shigenori.main.jp)