長谷川伸の名作『瞼の母』、恋川劇団による泣かせる芝居

「桐龍座(きりゅうざ)恋川劇団」 鈴川真子誕生日公演 2018年1月22日、新開地劇場 純座長(番場の忠太郎)と鈴川真子(生母だが、現在は料亭「水熊」の女将おはま)さんの親子共演 —————————————— 座長の母に対するオマージュの思いが込められた演出。母と…

玉三郎の完璧さと壱太郎の初々しい輝き

2018年1月松竹座『坂東玉三郎 初春特別舞踊公演』 「口上」 坂東玉三郎・中村壱太郎 「元禄花見踊」 坂東玉三郎・中村壱太郎 「秋の色種(あきのいろくさ)」坂東玉三郎・中村壱太郎 「鷺娘」 中村壱太郎 「傾城(けいせい)」坂東玉三郎 —————— (素人判断…

『新世紀、パリ・オペラ座』 ー 視点がユニークなドキュメンタリー映画

原題L’Opera、2017年公開、Jean-Stéphane Bron監督作品 芸術家のみに焦点を当てる平面的、一元的芸術至上主義を排して芸術の創造をいわば(昆虫のもつ)複眼を思わせる視点でとらえていて斬新であり説得力もある。 ドキュメンタリー映画において芸術家に焦点…

茂山七五三さん七十の賀(古希)お祝い公演で痛快かつ柔和な笑いを堪能

演目 •『佐渡狐』:茂山七五三(佐渡お百姓)、茂山あきら(越後のお百姓)、茂山千作(奏者)、井口竜也(後見) •「わかぎ ゑふによる七五三さんインタビュー」 •『居杭』:茂山七五三(陰陽師)、茂山慶和(居杭)、茂山宗彦(何某)、山下守之(後見) •…

梅若玄祥(シテ) 新作能『紅天女』、能とタカラヅカは反りが合わない!

2017年12月25日、京都観世会館にて。 客席に能楽ファンがいない。それも当然か。両隣にいた観客はまともな能学ファンなのかプレ・トークの間ずっと寝ていた。 揚幕から出てきた発声不良女優さんのセリフにはドン引きしかなかった。ええッ<自然と人間の共生…

『瞼の母』と『鶴八鶴次郎』〜 決断の時

2017年12月の芝居2本 *歌舞伎座十二月大歌舞伎第三部『瞼の母』(市川中車・坂東玉三郎 主演) 長谷川伸 (1884-1963年) 原作 (1930年) *浅草木馬館『鶴八鶴次郎』(12月4日、劇団 曉、三咲夏樹・三咲春樹兄弟座長主演) 川口松太郎 (1899-1985年) 原作 (1…

近松「文楽」—— 特異な心中物

2017年11月国立文楽劇場(大阪) 『鑓の権三重帷子』(やりのごんざかさねかたびら) 『心中宵庚申』(しんじゅうよいごうしん) ————————————————— 近松門左衛門の心中物といえば『曽根崎心中』や『心中天の網島』など10編以上ある。ほとんどの場合、遊女と…

森川劇団 「かっこよさ」が薄らいでる?

劇団(というより座長?)のプライドと思いが観客の期待と噛み合わないのではないかと思う。 プレゼントをあれこれ繰り出して客寄せをするのは見当違いのような気がする。プレゼントにつられてくるお客さんは心底劇団を応援してくれないだろう。 それから、…

森川劇団の自信作『お富与三郎 蝙蝠安』は残念ながら<ミスキャスチング>!

2017年11月23日、浪速クラブ(大阪、新世界) この題材は劇団花吹雪の代表作のひとつ『おとめ(乙女)与三郎』でも使われている。爆笑劇だが、本来は一見移り気な芸者・女郎の隠れた真心を浮かび上がらせる芝居だ。 さて今回のキャスティング。まだ中学生の…

森川劇団は<宝の持ち腐れ>に気づいて!

<一代新之助>は芝居も舞踊も絶品芸人だ。 2017年11月23日、浪速クラブ(大阪、新世界) 女型舞踊 「鳥取砂丘」と「都忘れ」というしみじみとした曲で絶品の踊りを見せてくれた新之助。 立役の踊りで見た「無法松」や「俵星玄蕃」もたまらなくいいけれど、…

美術品は展示されるコンテクスト(環境)が異なると別物に見える?

兵庫県立美術館『大エルミタージュ美術館展 オールドマスター 西洋絵画の巨匠たち』 2017年10月3日[火]~2018年1月14日[日] ひと月前サンクト・ペテルブルグに出かけたおり本家では見られなかった展示絵画を近場で見ようと兵庫県立美術館へ。 阪急王子公…

ロシア(サンクトペテルブルク)バレエはキレがいい

10月下旬サンクト・ペテルブルグ(旧レニングラード)に8泊、マリインスキー劇場とミハイロフスキー劇場でバレエ6本とオペラ1本を観劇。 マリインスキー (去る10月の演目は劇場の英語版HPに詳しいhttps://www.mariinsky-theatre.com/playbill/search/10-…

セルゲイ・ポルーニン ー 後日談と現在

前回、英国ロイヤル・バレエ団を突如辞したポルーニンがモスクワやノボシビルスクを拠点に活動と書いた。このロシアでの活動期間は長くは続かず、結局ロンドンへ戻ったらしい。独自に企画した公演を実践する一方でロイヤル・バレエ団とも共演してもいるそう…

人と神の狭間で —— 鬼才のバレエダンサー、セルゲイ・ポルーニン

ドキュメンタリー 映画『ダンサー、セルゲイ・ポルーニン 世界一優雅な野獣』(2016年) 原題はDancer、監督はアメリカ人Steven Cantor。 芸術的伝統と教師に対する絶対的服従・規律が不文律のバレエ界にあって反逆児・問題児(bad boy)とよばれてきたポル…

片山九郎右衛門は芸も人柄もすばらしい

「観世流能楽師シテ方片山九郎右衛門さんの 能はゆかしい おもしろい」 2017年10月4日、高槻現代劇場(大阪府高槻市)午後2時—4時 前半は楽屋ウラ話っぽい、気楽に聞ける談話。それでいながら能という芸術の真髄にふれていて傾聴にあたいした。 まだ二十代の…

梅若玄祥に魅せられて

9/30(土)13:00(開場 12:00) 京都 秋の梅若能 場所:京都観世会館 仕舞 通小町:河本望 地頭…会田昇 能『竹生島 女体』:梅若玄祥、井上貴美子、角当直隆、福王知登、喜多雅人、是川正彦、茂山千五郎、杉市和、曽和鼓堂、河村大、前川光長 地謡…角当行…

始原のことば・声

横浜能楽堂+ジャパン・ソサエティー<NY>共同制作作品 「SAYUSA-左右左」 横浜能楽堂 14:00~15:00 能の伝統的手法を取り入れた、新たなコンテンポラリーダンス作品。 日本研究の第一人者ドナルド・キーンの原案指導のもと、NY在住のイタリア…

演劇 −— 身体・言葉・ハイテク舞台装置の共同作業にもかかわらず想像力が飛翔できない

シェイクスピア劇『嵐 (Tempest)』、2017年夏、Barbicans劇場(London)、Royal Shakespeare Company (RSC) による上演(6月30日 — 8月18日) https://www.rsc.org.uk/the-tempest/から無断借用。 7月8日(土)マチネ観劇。約8千円。 ————————————————— シ…

森川劇団は見ごたえあり!

2017年7月29日、池田呉服座 明日が千秋楽、せっかくいい劇団にめぐり会えたのにもう終わりだ。太夫元、座長、副座長をはじめみなさん好感がもてる。それから気になるのが新入り座員、一代新之助。この人、身振り手振りがなんとも美しい。舞台上の動きがすべ…

歌舞伎雑感 —− 仁(ニン)と芸の寿命

2017年七月大歌舞伎、松竹座 【夜の部】 舞踊『舌出三番叟』(正式名称[本名題]は『再春菘種 またくるはる すずなの たねまき』 鴈治郎、壱太郎 四代目鶴屋南北『盟三五大切』 仁左衛門、時蔵、染五郎、鴈治郎、松也、ほか ================…

男と女が入れ替わる(gender role reversal / gender fluidity)

森川劇団 2017年7月 池田呉服座(大阪府池田市) 7月20日お芝居外題『変な男と変な女』 主演:劇団座長 森川竜二・劇団「絆」座長 錦連 この芝居始まってしばらくはよその劇団などで何度か見たと思った。しがない茶店を営む老婆が土地のヤクザから借金と取り…

ある能公演からの連想 ー 見え隠れする物語の連鎖

片山定期能 7月15日(土)12:30~16:50 京都観世会館 能「張良」武田邦弘 狂言「仏師」茂山良暢 能「松風 見留」片山九郎右衛門 (狂言の前後に片山伸吾、梅田邦久らによる仕舞が二曲) 10分の休憩2回を含む4時間あまりの公演。中身も濃かった。(上記演目…

(国際)人文系学会での発表のあり方

今年は6月と7月、アテネ、ロンドンで口頭発表させてもらった。自分のことは棚に上げての発言なのだが、毎度思うのは口頭発表といういわば演技の舞台であらかじめ用意した台本をそのまま読み上げる人が今も絶えない。話の内容が聞き手の関心事であるとないと…

シネマ歌舞伎『東海道中膝栗毛』--- コピーはオリジナルに劣るか

2017年6月上映(6月14日、神戸国際松竹) 昨年8月の舞台は見ず仕舞ながら映画版は大いに楽しめた。(恥ずかしながら原作は原文、現代語訳ともに未読だったので岩波文庫で今読み始めたところ。) 市川猿之助、市川染五郎の共演はさすがこれからの歌舞伎を牽引…

多様な形態をもつ物語(俊徳丸伝説)の宇宙、その一端を辰巳萬次郎の舞台にかいま見た

平成29年南都春日・興福寺古儀 薪能 (第二日 2017年5月20日) 11時~ 春日大社若宮社 御社上がりの儀 能『花月』金春穂高 17時半~ 興福寺 南大門跡・般若之芝 南大門の儀 能『杜若』シテ・観世喜之、ワキ・小林努 狂言『附子』茂山千三郎、丸山やすし、網…

2017年5月姫路城薪能 狂言『察化』、その題名の由来にこだわって

「察化」ということばは初めて耳にしたせいか、気になって仕方がない。今回の上演はおそらく主に大蔵流が使う台本に従ったのだろうと思う。『日本古典文学大系42 狂言集 上』(小山弘志 校注、岩波書店、1960年、331-341頁)に収録されているのと同じものの…

2017年5月12日(金)第47回 姫路城薪能

姫路薪能姫路城三の丸広場特設舞台で上演された(午後6時時-8時15分)。 当日夜8時から雨だという気象予報。でもまあお天気ばかりは運任せにするしかない。駅から会場に向かう途中道順をきこうとわたしが話しかけた人もおっしゃっていたが、過去にも雨に祟ら…

笛方 藤田六郎兵衛(ふじた ろくろびょうえ)は多面的なアーティスト

今年(2017年4月8日)に催された「篠山春日能」については別記事で述べさせてもらった。本記事はその続きみたいなもの。 藤田六郎兵衛さんの(わたしにとっては)意外な面貌について。これまで見たどの笛方も舞台では気難しそうな顔をされていた。藤田六郎兵…

篠山春日能(2017年4月8日)

演目: 能 『桜川』 大槻 文藏 (74歳、2016年7月に人間国宝認定) 狂言『魚説経(うおぜっきょう)』 茂山 逸平 能 『邯鄲(かんたん)』 浅見 真州 ========== 毎年4月恒例の能・狂言上演を初めて観劇。今年で44回目だが、能・狂言に本気で関心を…

春もまた茂山狂言がたまらなくいい

1.『花形狂言 2017』2017年3月31日 兵庫芸術化センター 演目:「蝸牛・改(改訂版)」、「かけとり~落語「かけとり」より~」、「寄せ笑い」、 「My Sweet Home~旅は道連れ~」、「狸山伏」 2.『春爛漫 茂山狂言会 五世茂山千作・十四世茂山千五郎襲名…